今回のお話は心霊系とかではないのですが、怖い人には結構怖い話なんですよね。
共感しすぎてしまう人にはちょっと注意なお話です。
この話は実話なのですが、うちの母親はこの話を【私の作り話の嘘】だと思っているようです。
この話の最後にはこの話の一番怖いオチがあるのですが、そこの部分は母親が気づいていないところであり、そこの部分を見るとこの話の現実味が一気に増すのです。
そもそも私本人はこの話を子供の頃から周りにしていますし、『自分が信じられない、信じたくないから相手を嘘つき呼ばわりする』と言うことはあまりしない方がいいと思うのですよね。
友達から聞いた話なんだけどねとかではなく、あくまでも私の実体験なわけですから。
私が中学生の頃、スキューバダイビングのライセンスを取ったんです。
理由は、父親がスキューバダイビングが好きで、そのせいもあり兄も中学生でライセンスを取っていました。
なので、私も中学二年生の夏にライセンスを取りました。
私がライセンスを取った年は、伊豆大島の海底火山が活発な時期であり、通常であれば伊豆あたりでライセンス講習があったのですが、私は千葉の館山というところで講習会を受けライセンスを取った記憶があります。
で、その夏に海外でダイビングをしに行こうという話があったのですが、私がライセンスを取ったばかりだったので、伊豆の海に一度潜りに行こうとなったのです。
さらにいきなり海というのもなんなので、伊豆にあるダイビングプールで練習をして、その翌日に海に潜るというスケジュールでした。
先ほども書いたのですが、伊豆は東京から近く海も綺麗なので、プール実習→海洋実習ということができるようにいくつか深さが20mあるダイビング用プールというのがありました。
そこで練習という感じだったんですね。
私がライセンス講習を受けた館山にはそういうプールがなかったので、プール自体初めてでした。
館山の海は透明度が悪く2mくらい先がみえればいい感じだったので、水面まで見えるプールは気持ちがよく、のんびりと泳いでいました。
プールとはいえ気圧などは同じですし、酸素量のチェックなどもきちんと行っていて楽しみながら泳いでいましたが、少し泳ぎ疲れてしまったので水底で休憩をとっていました。
すると、突然マウスピースから酸素が出なくなります。
酸素が薄くなるのではなく、空気の入っていない風船から呼吸をしようと思っても気体自体が入ってこない状態という感じですね。
さて、自分がいるのは20mのプールの底。
ダイビングというのは酸素ボンベから酸素を取り込んでいるために、酸素濃度や窒素濃度も圧縮されます。
プールの底で吸ったエアを肺に入れて、息を止めて上昇すると、気体が膨らみ肺の中で広がるために肺が破裂します(かなり急上昇してかなり我慢した場合)。
だから、講習では決して息を止めて上昇してはいけないと教わるのです。
しかし、呼吸というのは吸って吐いてを繰り返します。
マウスピースから酸素が出ないと確認できるのは「すべての空気を吐いて、吸う時にしかわからない」んです。
呼吸が浅ければ全てを吐き出す前に酸素を吸うのですが、リラックス状態でいるときには呼吸は深くなりますから、肺の中の残酸素はゼロなんですよね。
つまり、ゼロのものが膨らんでも肺を破らない。
ここまでをわずか1秒くらいで判断し、一気に水面まで上昇します。
しかし、肺に空気がないわけですから血中酸素も少ないわけです、水面が近づくにつれ、視界がだんだん白くなっていき、『あ・・・ヤバイ・・・・これダメだ・・・』って思った少し後に水面を破る感覚があり呼吸ができるようになります。
その直後、私の近くで同じように水中から誰かが出てきたと思ったら兄でした。
「お前何やっているんだよ、急上昇したらダメだって習っただろ!」
そう言われたのですが、『突然空気が止まって、こうするしかなかった』と説明すると。
「知ってるよ、だって俺が止めたんだもん」
と言い始めます。
もう、頭の中では『この人なんなの?馬鹿なの?』と思っていると。
「ここが海じゃなくて良かったな、海だったら死んでたぞ」とかさらに追い討ちをかけます。
いや、海じゃなくても今私このプールで死にかけたんですけど。
「補助マウスピース出してるのにお前が気づかないから」って言うので、『そんなの見えなかったし無かった、どこにあったの?』と言うと「頭の後ろ」と。つまり後頭部である。
見えるわけないだろ馬鹿野郎と思いながらゼーゼー言っていると、「気を付けろよ!」とか言って去っていった。
その話を父親にしても「ダメだぞそう言う悪ふざけは!」と言うだけで、兄も兄で「練習だって!」とか言いながら笑い合っていた。
こいつら頭いかれてるんじゃないの?
と言うのが当時の私の感想であった。
もちろん本人がこれを悪いと思っていた様子は微塵もなかった。
ってことで、この話は私の人生の中の笑い話となった。
ところがこの話に後日談ができることになる。
それは先月行われた父親のお葬式での話である。
父親の生い立ちというか、そういうのを兄と母親で書いたらしいものをお坊さんが読み上げていた時である。
「○○さんはダイビングがお好きで、よくお兄さんと一緒に海に潜っていたそうです。その際に酸素ボンベが故障してしまうハプニングがあり、お兄さんの補助ボンベで助かったということもありました」
この話を聞いたときに、私だけが『あーーーーーーー、なるほどね』と思ったのです。
ダイビングをやっている方ならわかると思うんですけど、酸素が止まる原因は2つほどあります。
一つは酸素ボンベのほうに問題がある場合。
酸素がなくなるだとか、供給する際のバルブが閉まってしまう場合。
二つ目はタンクから出たエアを口まで持ってくるマウスピースに異常がある場合。
切れてしまったとか、絡まってしまったとか。
この場合に、【いきなり酸素が止まる】かつ【異常に気づかない】というのは個人的にはバルブを誰かが意図的に止めた場合の可能性がかなり高いのである。
このバルブが閉まってしまう場合というのは、周りをサンゴや岩で囲まれている状況でバルブがサンゴや岩にぶつかって閉まってしまう場合や、漂流物がバルブに偶然当たる場合以外にはなかなか考えづらい。
しかも、そういう危険性があるので、バルブはすぐに閉まるようには設計されていないんです。
何回転も回さないと突然なんて閉まらない。
徐々に閉まれば出が悪くなることはありますが、いきなり止まるなんてことは考えられない。
そして、そんな事故が頻繁に起こっていれば、ダイビングでの死者が続出しており、とっくに禁止されている。
ひと家族で一生に一回あれば驚きの体験が二回もあるのである(笑)
しかも一回はプールという障害物ゼロの自然にバルブが閉まるなんて可能性はゼロの状況で、本人が「バルブを閉めた」と自供までしている。
多分本人は遊びのつもりや、それをやったら面白いと言うネジの飛んだ思考だったのだろう。
まぁ、そういう性格だというのは私は知っているので今更驚きもしないのですが。
面白半分で人が死ぬようなことをやってのけていた兄も大概だが、今も「兄がそんなことをするはずがない、あなたが嘘を言っている」と言う母親もすごいよねと言うお話でした(笑)